遺産分割協議

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遺産分割協議は取り消し・解除できますか?

いったん遺産分割協議を終えた後には、原則として取り消しや解除をすることできませんが、一定の条件のもとに、取消や解除ができることがあります。
このページでは、遺産分割協議を取り消すことができるのはどのような場合か、遺産分割協議の取消・無効・解除につい説明しています。

遺産分割協議書の取消・無効

詐欺・脅迫を原因とする取り消し(民法96条)

遺産分割協の協議に基づく合意は、相続人間での契約にあたります。詐欺強迫によってなされた契約は、取り消すことができます(民法96条)。

したがって、詐欺や強迫によって遺産分割の合意がされた場合には、この合意は取り消すことができます。具体的に言いますと、他の相続人から、相続財産の内容について事実とは異なることを告げられて遺産分割を承諾した場合や、脅されて遺産分割を承諾した場合には、後から取り消すことができるということです。

詐欺や強迫の事実があったかどうかが争いになるような場合には、取消の意思表示を行った上で、遺産分割協議無効確認の訴えを提起することができます。

錯誤による無効(民法95条)

また、錯誤による無効(民法95条)を主張できる場合もあります。たとえば、被相続人が遺言を残していたことを知らずに遺産分割協議を行った場合に、もし遺言の存在と内容を知っていれば、分割協議には応じなかったというような場合には、遺産分割協議の無効を主張できます。

相続人の一部による遺産分割協議の無効

一部の相続人を除外して、他の相続人のみでなされた遺産分割協議は、無効です。
この点に関連して、少し特殊な例ですが、失踪宣告取消のケースが問題となります。つまり、相続人の一人が失踪者であった場合に、その失踪者を除外して遺産分割協議をした後に失踪宣告が取り消されたら、失踪者が生存していることを知らずに行った遺産分割協議は無効となるのかどうか、という問題です。

このような場合には、遺産分割協議は無効にはなりません(民法32条1項)。ただし、失踪宣告を前提として、遺産分割協議の結果利益を受けた相続人は、現に利益を受けている限度(現存利益)においてのみ、その財産を返還する義務を負うことになります(民法32条2項ただし書き)。
※32条2項ただし書きは、失踪宣告を信頼した相続人を保護するための、32条本文に対する例外規定です。


民法32条(失踪宣告の取り消し)
1.失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2.踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

遺産分割協議の解除

債務不履行を原因とする解除(民法541条)

遺産分割協議の結果、相続人の1人が、他の相続人に対して債務を負担することがあります。このような場合に、債務を負担した相続人が債務を履行しなかったときには、他の相続人は債務不履行を原因として遺産分割協議を解除できるかという問題があります。

この問題については、最高裁の判決があります。最高裁平成元年2月9日判決では、「相続人の1人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが、相当である。」と判断しました。したがって、債務不履行を原因としては、遺産分割協議を解除することはできないということになります。

相続人全員の合意による解除

この問題についても、最高裁の判決があります。最高裁平成2年9月27日判決では、「相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない」と判断しました。

したがって、相続人全員が遺産分割協議をやり直したいと希望するのであれば、相続人全員の合意によるのであれば、遺産分割協議をいったん解除して再度話し合いをすることは可能ということになります。

遺言と異なる遺産分割協議は有効

遺言がある場合には、遺言の内容が優先されるのが原則ですが、相続人全員の同意があれば、遺言の内容と異なる内容の遺産分割協議は有効となるとされています。

ただし、遺言の中で遺言執行者が指定されている場合には、相続人全員の同意だけでは足りず、遺言執行者についても同意がなければ、有効な遺産分割協議とはなりません。遺言執行者がいる場合には、「相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることはできない(民法1013条)」からです。

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