相続放棄

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どのようなことが単純承認に当たるのでしょうか?

相続放棄の手続きは、民法921条に定める単純承認事由があると、認められません。単純承認事由というのは、相続することを承認するような事由ということです。
このページでは、相続財産の処分による単純承認について、司法書士がご説明しています。

※民法921条2号に定める「3カ月の期限」については、こちらのページ(相続放棄に期限があるのですか?)で詳しく解説しています。

相続財産の処分による単純承認

相続人は、単純承認をしたときは、被相続人の権利義務を承継することになります。民法921条1項には「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」には、相続人は単純承認をしたものとすると規定されています。

しかし、単純承認に当たるかどうかは、事情を総合的に判断する必要があります。たとえば、下記のような場合に、単純承認事由にあたるかどうか、問題となります。

1.相続人が被相続人の債務を支払った場合

被相続人が亡くなった後に、相続人がその債務を支払った場合です。相続債務を支払うことが、民法921条1項に定められた「相続財産の処分」に当たるのかどうかという問題です。

この点については、裁判所の決定があります。福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定では、相続債務を、相続人が自分の保険の解約返戻金を使って支払った事例において、これを単純承認事由にはあたらないと判示しました。

下級審の決定ですから、必ずしも同様の結論となるとは限りませんが、おそらく、被相続人の借金を、明らかに自分の財産を取り崩して支払ったのであれば、単純承認事由には当たらず、相続放棄ができるということになるでしょう。逆に、相続財産から相続債務を支払った場合には、単純承認事由にあたると判断される可能性が高くなります。


2.相続人が遺産から葬式費用を支払った場合

この点については、大阪高等裁判所の決定があります。大阪高裁昭和54年3月22日決定では、「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法九二一条一号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないのであつて、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」と判示しました。

お葬式が、一般常識に照らしてあまりにも華美であるなどの場合を除いて、遺産から葬式費用を支払う行為は、単純承認事由には当たらないと言えるでしょう。


3.財産の形見分けを受けた場合

形見分けを受ける行為は、原則として、単純承認事由にあたりません。「形見として背広上下、冬オーバー、スプリングコートと位牌を持帰り、時計・椅子二脚の送付を受けても信義則上処分行為に該当しない」という判例があります(昭和40年5月13日山口地方裁判所徳山支部判決)。

しかし、「被相続人の遺品を形見分けしただけでは、民法921条3号の「隠匿」には当たらないが、被相続人のスーツ、毛皮、コート、靴、絨毯など財産的価値を有する遺品のほとんど全てを自宅に持ち帰る行為は同号に該当し、法定単純承認となる」という判例もあります(東京地裁平成12年3月21日判決)。

つまり、形見分けと言われる行為は、それほど経済的な価値の高くないものについて行われるのが一般的なので、それを超えるような行為については、形見分けを超える行為として、単純承認事由となることがあるということです。


4.相続人が遺産分割協議をした場合

相続人が、遺産分割協議をした場合、これは原則として民法921条1項の単純承認事由に当たります。遺産分割協議をするということは、相続財産につき相続分を持っているということを認識して、そのことを前提に、相続財産に対して持っている権利を処分する行為であるからです。

ただし、例外的に、遺産分割協議が法定単純承認事由とならないという判断をした裁判所の決定があります。大阪高裁平成10年2月9日決定では、被相続人に多額の債務があることを知らずに遺産分割協議を行った相続人について、「遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある」と判示しました。

つまり、通常は遺産分割協議をすれば単純承認事由となり、相続放棄ができなくなりますが、相続債務の存在を知らず、遺産分割協議が錯誤により無効となるような事情があれば、単純承認事由とはならないこともあるということになります。


5.相続人が被相続人の有していた債権の取り立てをした場合

相続人が、被相続人の有していた債権を取り立ててこれを収受する行為は、「相続財産の処分」にあたり、単純承認事由となるという判例があります(最高裁昭和37年6月1日判決)

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